グリーン資本主義の実践:ESG時代に選ばれる再生可能エネルギーファンドとは

 日本や世界で再生可能エネルギーの導入拡大は、気候変動対策やエネルギー安全保障の観点から極めて重要な課題となっています。日本政府は2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指し、2030年度には電源構成に占める再生可能エネルギー比率を36~38%へ引き上げる目標を掲げました。この目標達成のためには莫大な設備導入と資金投下が必要であり、一部試算では2020~2030年の国内太陽光・風力発電への総投資額が1千億ドル(約10兆5千億円)を超えるとされています。こうした背景から、再生可能エネルギー分野への投資ファイナンス(特に民間資金の活用)が社会的に重要な意味を持っています。

 再生可能エネルギーへの投資は、地球温暖化の原因となるCO2排出削減につながるだけでなく、エネルギー自給率の向上や地域経済の活性化にも寄与します。再エネ発電設備は国内各地に分散して設置できるため、エネルギーの地方分散化と雇用創出を通じた地域振興効果も期待されます。また東日本大震災以降、日本ではエネルギー安全保障の観点から原子力依存低減と再エネ拡大が推進されてきました。2012年7月の固定価格買取制度(FIT)導入以降、太陽光発電を中心に再エネ設備容量は急増し、2017年9月時点で約3,900万kWに達するなど飛躍的な伸びを示しました。このように再生可能エネルギーは日本の次世代インフラとして重要な位置付けを与えられており、それを支える投資は環境的・社会的意義が大きいと言えます。

 一方で、日本国内では必要な再エネ拡大のための資金需要が依然大きく、政府の試算によればパリ協定目標の実現には世界全体で最大8,000兆円もの投資が必要になるともされています。こうした巨大な資本需要に応えるには、官民問わず資金の呼び込みが不可欠であり、特に世界で総額3,000兆円規模とも言われるESG投資(環境・社会・ガバナンス要素を考慮した投資)を再エネ分野へ誘導することが重要と指摘されています。再生可能エネルギーファンドは、まさにこのESG投資の受け皿として、投資家にとって持続可能な社会づくりへ資金を拠出する手段となり得ます。また、再エネへの投資を通じて安定したリターンを得つつ社会貢献できる点は、多くの投資家の関心を集めており、いわば「善意と利益の両立」が可能な投資対象として注目されています。

 日本の再生可能エネルギー分野への投資ビークルには、いくつかの形態があります。大きく分類すると、証券市場に上場して投資家が売買できるインフラファンド(REIT型ファンド)、非上場で機関投資家や一部個人から資金を募る私募ファンド、および株式市場の指数連動などを目的としたETF(上場投資信託)型のファンドが存在します。それぞれの構造と戦略には特徴があります。

  • インフラファンド(REIT型): これは不動産投資信託(J-REIT)に類似した仕組みで、再生可能エネルギー発電設備等のインフラ資産を投資対象とする投資法人です。東京証券取引所には2015年にインフラファンド市場が創設され、2016年6月に第一号のタカラレーベン・インフラ投資法人が上場しました。インフラファンドは投信法上、不動産の一種として認められたインフラ資産(主に太陽光発電設備等)に投資し、得られる賃料収入や売電収入を投資家に分配します。その収益構造は、多くの場合FITに基づく売電収入を原資とした安定的なキャッシュフローを生み出す形になっています。具体的には、インフラファンドが太陽光発電設備とその敷地を所有し、それをオペレーター企業に賃貸して賃料収入を得る形態が一般的です。このオペレーターが発電・売電を行い、得た収益からインフラファンドへ賃料を支払うという構図です。したがって投資家は、20年間の固定買取価格に裏付けられた安定賃料を分配金として受け取ることが可能であり、利回りの安定度が極めて高い点が特徴です。実際、上場インフラファンドの分配金利回りは平均でおおむね5~6%程度と、J-REIT平均(約3.8%)や東証一部上場株式平均(約1.9%)よりも高水準に設定されています。これはFITにより長期固定された売上ゆえに不況期にも強いメリットを持つためで、景気が悪化して電力需要が落ち込んでも、日照や風況が極端に悪くならない限り一定の収益が確保できる仕組みになっているからです。一方で、インフラファンドはインフレ耐性が低い(買取価格が固定のため物価上昇に収入が連動しない)点や、市場規模が小さく流動性が限定的である点などの課題もあります。市場規模はJ-REITに比べまだ桁違いに小さく(2024年3月末時点で上場インフラファンド全銘柄の資産規模合計約3,075億円)、大口注文で価格変動がぶれやすい側面も指摘されています。しかしながら上場インフラファンドは少額から投資可能で(1口数万円程度)、個人投資家にも門戸が開かれているため、再エネ事業に幅広い資金を呼び込む役割を果たしています。
  • 私募ファンド(非上場型): 上場せずに資金を集めるファンド形態で、主に機関投資家や適格機関・富裕層向けに組成されます。私募型の場合、特定目的会社(SPC)や合同会社などのビークルを通じ、匿名組合(TK)出資や合同出資の形で再エネ発電事業に投資するケースが多いです。例えば、アール・エス・アセットマネジメント株式会社(RSアセット)は2013年設立の再生可能エネルギーファンド運用会社で、複数の私募ファンドを組成し個人投資家から小口資金を集めています。RSアセットのスキームでは、投資家は匿名組合出資という形でSPCに出資し、SPCが保有する太陽光発電設備の売電収入から安定的な分配を受け取ります。匿名組合出資は出資額が上限責任であるため、万一事業が不調でも投資家の損失は出資額までに限定される利点があります。RSアセットの場合、ファンド組成段階で特別目的会社を設立し、発電設備の設置候補地選定から建設・運営・メンテナンスまでを提携企業に委託する「アレンジメント事業」と、自らSPCに出資する「インベストメント事業」を両輪としています。このような私募ファンドは上場コストが不要で柔軟な運用が可能ですが、一般投資家には情報開示が限定的で流動性も低いという特徴があります。大口投資家にとっては個別案件への直接投資や共同投資の形で再エネ事業に参画できる点が魅力であり、実際に国内には40社以上の運用会社が様々な再エネ私募ファンドを運営しています。私募ファンド全体の市場規模(資産額ベース)は2024年3月末時点で約2兆3,000~2兆7,000億円と推計され、上場インフラファンドを大きく上回る資金が非公開市場で動いています。
  • ETF型・投資信託型: こちらは発電設備そのものに投資するファンドではなく、再エネ関連の株式やインフラファンド証券を対象とする証券投資型のファンドです。国内には例えば「グローバルX Japan クリーンテック-日本株式ETF(2637)」や「グローバルX 再生可能エネルギーETF」など、再エネやクリーンテック関連企業に分散投資するETFが存在します。これらETFは再エネ関連株の指数(例えばFactSet Japan CleanTech & Energy指数など)に連動した運用を目指しており、日本の上場企業で再エネ事業を展開する企業(太陽光パネルメーカー、蓄電池メーカー、エネルギー関連サービス企業など)の株式に投資します。また、ブラックロック社の「iシェアーズ・グローバル・クリーンエネルギーETF」のように海外も含めクリーンエネルギー企業全般に投資するETFも国内で購入可能です。さらに、国内証券会社の投資信託商品として、再生可能エネルギー設備やインフラファンドに間接的に投資するファンドも設定されています。例えば大和アセットマネジメントの「再生可能エネルギーファンド(愛称:地球温暖化対策ファンド)」などは、世界の再エネ関連事業会社の株式やグリーンボンド等に投資することで間接的に再エネ普及に貢献する商品です。これらETF・投資信託型のメリットは証券市場で流動的に売買でき、比較的少額から再エネセクターに分散投資できる点です。ただし株式市場の変動リスクをそのまま受けるため、設備保有型ファンドほど収益の安定性は高くありません。また、上場インフラファンドを組み入れたETF(例えば「上場インフラファンド指数」に連動する投信など)は現状存在しないため、インフラファンド市場自体への指数連動投資はまだ一般化していません。しかし今後インフラファンド銘柄が増加し市場が拡大すれば、それらを対象としたETFや指数化の動きも出てくる可能性があります。

 以上のように、再エネファンドの構造は多様ですが、根底にある投資戦略はいずれも再生可能エネルギー事業から生み出される安定収益の享受にあります。上場型はFIT等による長期固定収入を背景に高い分配利回りを追求し、私募型は投資スキームの工夫(匿名組合やスポンサー支援)でリスク限定と収益確保を図り、ETF型は関連企業の成長性に賭けつつ分散でリスク低減を図ります。それぞれ投資家のニーズに応じた形態で、市場には幅広い選択肢が提供されています。

 ここでは、日本の再生可能エネルギーファンド市場において代表的な存在である上場インフラファンドと、私募ファンド運用会社の一例の特徴を詳しく紹介します。

  • 日本再生可能エネルギーインフラ投資法人(英名: Renewable Japan Energy Infrastructure Fund, RJIF): 日本再生可能エネルギーインフラ投資法人は、2017年3月に東証インフラファンド市場へ上場した国内3番目のインフラファンドです。再生可能エネルギー発電設備等(主に太陽光発電設備)への投資を目的とし、スポンサー企業は再生可能エネルギー開発を手掛けるリニューアブル・ジャパン株式会社(RJ社)と大手不動産会社の東急不動産株式会社でした。資産運用会社のアールジェイ・インベストメント株式会社はRJ社66.6%、東急不動産33.4%出資で設立され、RJ社はオペレーター(運営受託者)兼O&M(保守管理)事業者も務める形で強力に支援していました。同投資法人は、全国の太陽光発電所(特にRJ社が開発した設備)の土地・設備を保有し、オペレーターである「日本再生可能エネルギーオペレーター合同会社」から賃料収入を得るビジネスモデルを採用していました。2020年には東急不動産がスポンサーに加わり、支援体制を強化しています。RJIFは比較的高い個人投資家比率を持ち、安定した配当利回りを提供していました。 注目すべき出来事として、2022年にRJIFはスポンサーのRJ社によってマネジメント・バイアウト(MBO)的なTOB(株式公開買付け)の対象となり、上場廃止に至りました。RJ社は2022年5月にRJIFの投資口を1口当たり115,000円で公開買付けし、過半の投資口を取得。同年6月には競合するカナディアン・ソーラー・インフラ投資法人側が合併提案を行う動きもありましたが、最終的に買付けは成立し、RJIFは2022年8月22日付で上場廃止となりました。この過程では、インフラファンド市場の小規模さゆえにスポンサー企業の意向でファンドが非公開化されるリスクが顕在化した事例とも言えます。RJ社がTOBに踏み切った背景には、当時FITからFIP等への制度移行により発電事業環境が変化しつつあったことや、RJIFが賃料固定契約ゆえにオペレーターであるRJ社側の負担が相対的に大きいといった事情が指摘されています。いずれにせよ、RJIFは日本のインフラファンド草創期を支えた銘柄であり、その運用期間中に地域経済への貢献や環境関連産業育成にも寄与しつつ、投資主に安定収益をもたらしました。
  • いちごグリーンインフラ投資法人(Ichigo Green Infrastructure Investment Corporation): いちごグリーンインフラ投資法人は2016年12月に上場したインフラファンド市場第二号の銘柄で、東証プライム上場の不動産会社であるいちご株式会社がスポンサーを務めます。いちごはJ-REIT(いちごオフィスリート、いちごホテルリート)も運用する資産運用会社を傘下に持ち、不動産分野での実績を再エネ分野に展開する形で本投資法人を設立しました。投資対象は主にメガソーラー(大規模太陽光発電所)であり、資産運用会社はいちご投資顧問株式会社が担当しています。特徴的なのは、他の上場インフラファンドが年2回決算・分配を行うのに対し、いちごグリーンインフラ投資法人は年1回(毎年6月期)決算のスキームを採っている点です。そのため投資主は年に一度まとまった分配金を受け取る形になりますが、1口当たり分配金は相対的に大きく、近年では1口あたり3,500~4,000円程度の分配が行われています。2024年6月期の分配金実績4,065円に対し投資口価格は5万円弱で推移しており、利回りはおおよそ8%近辺と市場内でも高い水準となっています。 もっとも、同投資法人は2025年現在、時価総額約56億円程度と他銘柄に比べ小型であることや、投資資産がほぼ太陽光に偏っていることから流動性・分散性に課題があると指摘する向きもあります。実際、いちごグリーンインフラは上場インフラファンド5銘柄の中で最も時価総額が小さく、個人投資家中心の保有構造です。そのため筆者のように他の4銘柄は保有していても当銘柄への投資は控える例も見られます。しかしスポンサーである「いちご」グループは、自社でも太陽光発電所の開発・運営を行っており、同ファンドへパイプラインを提供する役割を果たしています。またESGの観点では、本投資法人は脱炭素社会への貢献をうたっており、公式サイトでSDGs達成や環境貢献の取り組みを積極的に情報開示しています。なお2023年時点でいちごグリーンインフラ投資法人は引き続き上場維持しています。他銘柄のTOB事例(RJIFやタカラレーベン)もある中、いちごは引き続き公募増資等で資産拡大を図る意向を示しており、市場残存プレイヤーとして安定運用と規模拡大の両立が期待されています。
  • カナディアン・ソーラー・インフラ投資法人(Canadian Solar Infrastructure Fund, CSIF): カナディアン・ソーラー・インフラ投資法人は2017年10月に上場したインフラファンドで、世界的な太陽電池メーカーであるカナディアン・ソーラー社グループがスポンサーを務めています。資産運用会社はカナディアン・ソーラー・アセットマネジメント株式会社で、スポンサーのカナディアン・ソーラー・プロジェクト株式会社(日本法人)が開発したメガソーラー案件を中心にポートフォリオを組成しています。カナディアン・ソーラー社はグローバルに太陽光発電所の開発・保有を手掛けており、その日本国内のプロジェクトをファンドに取り込む形で成長してきました。2023年時点で同ファンドは資産規模約1000億円近く、上場インフラファンドの中でも最大級となっています。 特徴的なのは、収益安定のため大手電力会社との20年固定買取契約(FIT)がある発電所に投資すると同時に、一部ポートフォリオには出力制御リスクを低減するため蓄電池併設の発電所も含めている点です。例えば北海道や九州など、電力系統の制約で晴天時に太陽光発電の出力抑制(カット)措置がとられる地域では、発電所側で蓄電池を設置して余剰電力を蓄え制御に対応するケースがあります。カナディアン・ソーラー・インフラ投資法人も、スポンサー開発案件で蓄電池付きメガソーラーを運営している例があり、これは市場先進的な取り組みです。また、同投資法人は情報開示やIR活動にも積極的で、台風や大雨など自然災害発生時には迅速に設備被害の有無を開示しています。例えば2024年8月の台風10号による記録的豪雨では、九州地方の保有7発電所で一時的に系統停電が発生しましたが、2日程度で全て復旧し設備被害もなかったことが公表されています。このように災害リスクへの対処状況を透明性高く伝える姿勢は、投資家の信頼を高めています。2022年には前述のRJIFに対し合併提案を行うなど攻めの動きも見せましたが最終的に実現しませんでした。しかし積極的な資産取得により分配金は着実に成長しており、2023年7月には一度に5物件(取得価格合計167億円)の太陽光発電所を追加取得するなどポートフォリオ拡大を続けています。同銘柄の分配利回りは概ね5~6%台で推移し安定していますが、引き続き高圧・特高太陽光が中心ゆえ、今後制度変化(FIT終了後のPPA化等)への対応が注目されます。
  • アール・エス・アセットマネジメント株式会社(RS Asset Management): RSアセットは、上場ファンドではなく再エネ私募ファンド運用会社の代表例として取り上げます。2013年3月に「再生可能エネルギーファンドのアセットマネジメント会社」として設立され、東京都港区に本社を置きます。資本金5,000万円、代表取締役は平林裕二氏で、創業以来「安全かつ安定したクリーン電力供給による社会貢献」を掲げて事業を展開しています。RSアセットのビジネスは主に二本柱です。一つはファンドアレンジメント事業で、再エネ発電プロジェクトの組成支援から運営管理までを統括するスキーム構築を担います。具体的には、特定の太陽光発電案件について特別目的会社(SPC)を設立し、土地の選定・設備設置・メンテナンス等を提携先に委託して、発電事業の器を整える役割です。もう一つはインベストメント事業で、RSアセット自身が組成したSPCに匿名組合出資(TK出資)を行い、発電事業からの売電収入に基づくリターンを得るものです。このTK出資は上述の通り出資額以上の損失が出ない有限責任であり、個人投資家にとってリスクを抑えつつ安定収入を得る手段となっています。 RSアセットが運用するファンドには、SBI証券やオリックスなど大手金融機関も販売・出資に関与しており、同社の主要取引先としてSBI証券、京セラコミュニケーションシステム、東芝、大和ハウス工業、メガバンクなど錚々たる企業名が並んでいます。これは同社ファンドに対する信頼性の表れであり、再エネ事業が将来有望と評価されていることを示唆しています。RSアセットの実績規模は、グループ全体で全国145か所・総発電容量約309MW(太陽光77か所約309,335kW、風力3か所22,455kW、バイオマス2か所40,918kWなど)に及びます。特に太陽光発電を中心に、多数の中小規模案件も束ねてファンド化している点が特徴です。例えば低圧(50kW未満)太陽光発電設備を複数まとめて一定規模の投資対象とするなど、小口案件の集合体への投資機会も提供しています(こうした低圧案件への投資事例は市場全体でも増えつつある傾向です)。またRSアセットは単に収益最大化を図るだけでなく、外部の専門家(弁護士・会計士)や投資家との協議を通じてリスクとリターンの最適点を探り、社会的意義と投資利益の両立を追求すると述べています。実際に同社はSDGsへの積極的な取り組みも宣言し、持続可能な地域社会づくりに貢献する姿勢を明確にしています。 RSアセットマネジメント社の存在は、再エネ投資が必ずしも大規模上場ファンドだけでなく、非上場の形でも広がっていることを示しています。誰もが太陽光発電所を直接所有できなくとも、こうしたファンドを通じて比較的少額から再エネ事業に参加可能になるという点で、裾野を広げる役割を果たしています。RSアセットのような運用会社は他にも多数あり、地銀系・商社系・独立系など様々なプレイヤーが地域分散型の再エネファンドを組成しています。これらは公にはあまり情報が出ませんが、日本各地で再生可能エネルギー普及を下支えする重要な金融メカニズムとなっています。

 再生可能エネルギーファンドの運用成果は、政府のエネルギー政策や制度設計に大きく左右されます。日本における主な関連制度として、固定価格買取制度(FIT)とフィードイン・プレミアム制度(FIP)があります。また、国のエネルギー基本計画や脱炭素戦略も、ファンドの投資環境に直接影響を及ぼします。

  • FIT(固定価格買取制度)の導入と効果: FIT制度は2012年7月に開始され、再生可能エネルギーで発電した電気を一定期間・固定価格で電力会社が買い取ることを義務付けた制度です。対象は太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスと多岐にわたり、新規参入者でも20年間にわたる安定収入を見込めるため、制度開始直後から日本国内で太陽光発電所の建設ラッシュが起こりました。特に利益率の高いメガソーラー案件が全国で急増し、先述のように数年で再エネ設備容量が飛躍的に拡大しました。FITは再エネ普及に決定的な役割を果たしましたが、一方で買い取り費用が電気料金に上乗せされる(再エネ賦課金)仕組みのため、国民負担の増大が課題となりました。制度開始当初、太陽光の買取価格は非常に高く(例: 40円/kWh超)、投資過熱による土地争奪や接続保留問題も発生しました。そのため政府はFIT価格を毎年引き下げ、認定ルールを厳格化する改正(2017年の改正FIT法)を行い、未稼働案件抑制や減額制を導入しています。それでもFITにより多くの再エネ事業者が参入し、2020年度時点で日本の再エネ発電比率は19.8%に達しました(うち太陽光が大半)。 FITはインフラファンドの収益の柱であり、現在上場ファンドが保有する発電所の大半はFIT契約付きです。FITのおかげでインフラファンドは20年間のキャッシュフローを予見可能とし、分配金の安定性を高めています。ただ、その一方でFIT終了後(認定満了後)の見通しが不透明である点が中長期的なリスクです。FIT期間が終わった発電設備は市場価格で電力を売るか、企業や自治体と直接契約(PPA)することになりますが、その価格水準はFITより低くなる傾向があると予想されています。実際、経産省の委員会試算では2019年以降の余剰電力の買い取り価格が11円/kWh程度になると見込まれています。従ってインフラファンド各社も、保有資産のFIT期限が将来到来することを見据え、運営費用の削減や新たな収益源確保など対策を検討しています。
  • FIP(フィードイン・プレミアム制度)への移行: 日本では2022年4月からFITに代わる新たな支援策としてFIP制度が導入されました。FIPは市場価格+プレミアムという形で再エネ電力の売電収入を支援するもので、固定価格での買い取りを約束するFITとは異なり、市場連動型の仕組みです。具体的には、再エネ発電事業者が卸電力市場等で電気を売った際、その市場価格に一定額のプレミアム(補助金)が上乗せ支給されます。これにより発電事業者は市場原理にさらされつつも一定の収入下支えを得られる仕組みです。FIP導入の背景には、再エネ事業を市場原理に馴染ませつつ、FITのような国民負担増を抑制する狙いがあります。現状、大規模な太陽光・風力新規案件はFIP適用が中心となりつつあります。インフラファンドにとっては、将来FIP案件への投資も視野に入りますが、FITに比べ価格変動リスクがあるため注意が必要です。もっとも、FIPでも長期契約(例えば企業とのPPA契約を締結)やヘッジ手段を講じることで安定収益を確保できる可能性があります。また政府もプレミアム額を適切に設定し、市場価格と合算した売電収入が従来のFIT並みに近づくよう調整することが想定されます。実際、欧州などではFIP型制度でのインフラ投資が一般的であり、日本でも移行期を経てファンド側が適応していくと見られます。なお、FIP制度への完全移行には時間がかかるため、当面はFITとFIPが並存します。例えば2022年度以降も、地域活性化型の小規模案件などでは引き続きFIT枠が設定されています。したがってインフラファンドも、当面はFIT契約資産を中核に収益を上げつつ、新制度下の案件も慎重に取り入れる戦略を取るでしょう。
  • エネルギー基本計画と政府戦略: 政府はエネルギー政策の指針として「エネルギー基本計画」を約3~4年ごとに策定しています。最新の第6次エネルギー基本計画(2021年10月策定)では、2030年度の電源構成目標として再生可能エネルギー比率36~38%(内訳:太陽光14~16%、風力5%、水力11%、バイオマス5%、地熱1%)を掲げ、再エネを「主力電源化」する方針が明記されました。また2050年カーボンニュートラル実現に向けて、再エネ最大限導入とともに、水素・アンモニア利用拡大(2030年に1%電源構成)や蓄電池導入も戦略的に推進するとしています。これら政策目標は、再エネ関連ファンドに追い風となるものです。政府が明確に再エネ拡大の方向性を示すことで、事業者は長期投資計画を立てやすくなり、ファンド側も資金投入を判断しやすくなります。また、国による設備導入補助金や減税措置も重要です。再エネ設備にはグリーン投資減税など税制優遇が用意されており、ファンドの投資案件において初期投資コスト軽減につながっています。さらに2022年には経済産業省が「再エネ加速化促進策」として、地域主導の再エネ事業支援や系統増強への政府関与を強めました。オフサイトコーポレートPPA(企業が電力会社を介さず発電事業者から電気を直接買う契約)の普及促進策も講じられており、これに対応した新たなビジネスモデルも模索されています。例えば再エネ電力の非FIT直接販売では、ファンドや事業者が自家消費型・第三者所有モデルを組み合わせ、新たな収益機会を探る動きがあります。

 以上のように、日本の政策・制度は再エネファンドの機会とリスクを形作っています。FITの恩恵で成長したファンド業界は、今後FIPやPPAといった新機軸に適応することが求められます。また政府戦略(エネルギーミックス目標達成やGX戦略)に沿って、蓄電池や水素など新分野への投資可能性も広がっていくでしょう。ファンド運用者は政策動向を注視しつつ、制度変更に柔軟に対応することが重要です。

 再生可能エネルギーファンドへの投資には、他の金融商品にはない独特のメリットとデメリットがあります。ここでは主なポイントを整理します。

〈メリット〉

  • 高い分配利回りと安定収益: 上場インフラファンドは平均して5~6%台の高い分配利回りを提供しており、これは日本株式平均や国債利回りと比較して非常に魅力的です。またFIT契約に裏打ちされた売電収入がベースのため、収益変動が小さく安定性に優れています。例えば景気後退期に需要が減少しても、買取価格は固定されているため収入は確保され、不況に強い傾向があります。天候リスクはあるものの、太陽光発電の場合でも年間発電量は想定範囲内に収まるケースが多く、複数案件を組み合わせて地域分散すればさらにリスク低減が図れます。
  • 少額からのインフラ投資参加: インフラファンドや再エネファンドを利用すれば、個人でも数万円から再エネ発電事業に投資可能です。通常、メガソーラー開発には数億~数十億円規模の資金と土地・専門知識が必要ですが、ファンドを通じて間接的に出資することで、個人でも大型インフラ資産の一部を所有して収益配分を受けられます。これは投資機会の民主化とも言え、広く一般の資金を集めて再エネ促進に貢献できる仕組みです。
  • 景気や市場に左右されにくい: 再エネファンドの収益源は電力の販売であり、電力は生活に不可欠なベーシック需要です。そのため株式のように景気変動で業績が大きく揺らぐことは比較的少なく、株式・REIT市場との相関も低めです。分散投資先としてポートフォリオに組み入れることで、全体のリスク分散効果が期待できます。特にインフラファンド分配金は債券的な安定収入の性格が強いため、株価急落局面でも価格変動が相対的に穏やかな傾向があります。
  • 税制上のメリット: 上場インフラファンドはJ-REIT同様、利益の90%以上を配当に回すことで法人税が実質非課税となる仕組み(投資法人税制)を享受しています。また分配金の一部に「利益超過分配金」(減価償却相当額の払い戻し)が含まれる場合、受け取る投資家の税務上は元本払戻し扱いとなり、受取時に税金がかからず取得価額調整のみとなります。これは課税繰延効果があり、短期的な手取り利回りを高めます。例えばカナディアン・ソーラー・インフラ投資法人では減価償却費の一部を継続的に利益超過分配として投資主に還元する方針を公表しています。この分配金は税務上、配当ではなく元本払戻しとみなされるため、確定申告で取得価額を減額する処理を行うことで課税を後回しにできます。さらに2023年より創設された「グリーン投資減税」により、一定の再エネ設備に投資する事業には即時償却や税額控除が適用可能となりました。ファンドによってはこの恩恵を受けてポートフォリオ企業(SPC)の課税所得を減らし、結果的に投資家への還元余力を高めているケースもあります。
  • ESG的満足感: 再エネファンドへの投資は、環境問題の解決や持続可能な社会づくりに直接貢献する行為でもあります。化石燃料由来の電力ではなくクリーンエネルギー普及を資金面から支援できるため、投資家は社会貢献と資産運用の両立を実現できます。この点は他の高利回り商品(例: 石炭関連ビジネス等)とは一線を画し、投資主としての誇りやSDGs達成への参加意識を高めてくれます。多くの再エネファンドが自らの社会的意義をアピールし、投資家に共感を求めているのもそのためです。

〈デメリット・リスク〉

  • 制度変更リスク: 前述の通り、ファンド収益はエネルギー政策に大きく依存します。FIT価格の引き下げや適用期間終了後の売電価格低下は将来の分配金に影響を与えかねません。また出力制御の対象地域拡大もリスクです。近年、九州電力管内では太陽光の急増に伴い需要少ない日に出力抑制(発電停止命令)が頻発しましたが、今後は東北や中国エリアでも抑制が実施される状況となり、該当地域の発電所収入が目減りする懸念があります。実際、出力制御のエリア拡大により太陽光発電所の価値評価が難しくなり、売買が減速しているという指摘もあります。政府の買い取り政策が思わぬ方向に転換した場合(例: FIT期間短縮やさらなるプレミアム縮小など)、ファンド側は戦略の見直しを迫られる可能性があります。
  • 自然災害リスク: 太陽光や風力など屋外設備は、台風・豪雨・地震などによる被害リスクを常に負っています。日本は自然災害が多いため、大規模台風が複数の発電所を直撃すれば、破損や長期停電で収益悪化もあり得ます。もっとも、多くのファンドは保険に加入しており、設備の物的損害や休業損失(売電停止による収入減)について保険金でカバーする体制を取っています。例えばジャパン・インフラファンド投資法人は2024年3月に茨城県の太陽光発電所で電気ケーブル盗難被害が発生した際、被害箇所の復旧費用と発電停止中の売電収入について保険で補償請求することを明らかにしました。このように保険活用や予備費計上で緩和されるとはいえ、災害の頻度・規模によっては短期的な分配金減少は避けられません。また気候変動により台風の大型化・豪雨頻発が指摘されており、長期的にはこうしたリスク増大も念頭に置く必要があります。
  • 流動性・市場規模の制約: 上場インフラファンド市場はまだ小さく、銘柄数も限られています。前述のように2023年にタカラレーベン・インフラ投資法人とRJIFが相次ぎ上場廃止となり、残存銘柄は5つだけとなりました。市場全体の時価総額も2024年3月末で約1,440億円と、J-REIT市場(15兆円規模)に比べて1/100以下です。このため、一度にまとまった資金を投じにくく、機関投資家の参入も限定的です。出来高が少ない日には投資口価格が思わぬ値動きをする可能性もあります。大口の換金需要が出た場合、市場で捌ききれずに価格が急落するリスクもゼロではありません。ただ、これまでのところ市場実績を見ると安定した値動きで推移しており、市場育成と投資家裾野拡大が進めば流動性も改善する見込みです。
  • 金利変動リスク: インフラファンド各社は発電所取得のため銀行借入を利用しています。そのため、市場金利が上昇すると借入金の利払い負担が増え、分配原資が圧迫される可能性があります。特に昨今、日銀の金融政策変更観測もあり金利上昇リスクが現実味を帯びています。借入比率の高いファンドほど注意が必要で、金利上昇は財務健全性に影響し得ます(極端な場合、財務悪化で増資困難となりファンド継続が難しくなるシナリオも否定できません)。他方で、現状のファンドは借入金利が極めて低位に固定されているケースが多く、直ちに大きな悪影響は出にくいとも言えます。投資家としては各ファンドの有利子負債比率や金利固定割合、融資期間などをIR資料で確認し、金利変動耐性をチェックすると良いでしょう。
  • インフレ・燃料価格リスク: 再エネは燃料不要とはいえ、インフレ局面では維持コストや設備更新コストが上昇する恐れがあります。特に太陽光パネルや風車の部品交換、土地リース料などが物価上昇でコストアップすると、分配余力が削がれます。また卸電力市場価格が急騰・急落する局面では(例えば化石燃料価格高騰で市場価格高止まり等)、FIP案件や非FIT案件の収支が不安定になる可能性もあります。ただ、日本の再エネファンドは現状大部分が固定価格契約下にあるため、燃料市況の変動は間接的な影響に留まっています。長期的にはインフレに強い資産へのシフト(例えば価格連動型PPA契約への移行など)が課題になるでしょう。
  • 成長余地の限界: 再エネファンドは安定収益を重視するあまり、J-REITのように内部成長(賃料増額)や物件開発による大幅な収益拡大が見込みにくいという指摘があります。FIT売電価格は固定なので、設備効率向上やコスト削減以外で分配金を増やす手段が限られています。そのため投資口価格の値上がり(キャピタルゲイン)も緩やかで、株式のような急成長益は期待薄です。一方で、新規資産の外部成長(追加取得)によっては分配金の積み増しが可能であり、実際カナディアン・ソーラー・インフラ投資法人などは継続的な資産入替で分配金を増やしてきました。したがって成長余地ゼロという訳ではありませんが、その速度は緩慢であり「高配当だが値動きは緩やか」という性格を理解して投資する必要があります。

これらメリット・デメリットを総合すれば、再生可能エネルギーファンドは安定収入志向の中長期投資に適した商品と言えます。定期的なインカムゲインを得つつ社会貢献もしたい投資家には魅力的ですが、短期売買や大化け狙いには不向きです。税務や制度の知識も多少必要ですが、分散投資を図りつつポートフォリオの一部に組み入れることで、全体のリスク調整後リターン向上に寄与する資産クラスと位置付けられます。

 再エネファンドに対する評価は、投資家の属性(個人か機関か、投資規模や運用方針など)によって異なります。それぞれの視点から見た利点や戦略を考察します。

  • 個人投資家(小口)の視点: 個人にとって再エネインフラファンドは、高利回りかつ社会的意義のある投資先として魅力的です。特に預金や国債では満足な利回りが得られない中、年5~6%の配当収入は資産運用上貴重なインカム源となります。また株式投資のように日々企業業績を追う必要が少なく、比較的手間のかからない商品でもあります。個人投資家はNISA枠(少額非課税投資枠)でインフラファンドを保有することも可能で、配当金が非課税で受け取れるメリットも享受できます。実際、上場インフラファンドの投資主構成を見ると個人比率が高い傾向があり(RJIFでは個人比率が極めて高かった)、家計の資金が少しずつ再エネ事業に流れ込んでいる状況が伺えます。個人にとっての戦略としては、インフラファンドを長期保有して配当再投資を行い、複利で資産形成を図る方法が考えられます。株価のボラティリティが低いため精神的負担も小さく、「債券代替」としてポートフォリオに組み入れるケースもあります。注意点としては、市場規模が小さいゆえに単一銘柄へ集中投資するのは避け、複数銘柄に分散したり他の資産クラスとも組み合わせたりすることです。また個人投資家の中でもESG志向の強い層にとって、再エネファンドは理想的な投資対象です。投資によって社会を良くできるという満足感は、お金のリターン以上の価値を持つこともあります。このためクラウドファンディング型の太陽光ファンド(1万円程度から参加可能なネット経由の小口ファンド)も盛況で、個人マネーの受け皿が広がりつつあります。もっとも、個人は制度変更など外的要因に迅速に対処しにくいため、ニュースやIR情報を定期的にチェックし、環境変化に注意を払うことが重要です。
  • 機関投資家(大口)の視点: 一方、年金基金・保険会社・金融機関などの機関投資家にとって、再エネファンドはまだ限定的な投資対象となっています。最大の理由は市場規模の小ささです。巨額の運用資産を抱える機関投資家が十分な金額を投資しようとしても、流動性不足でポートフォリオに組み入れづらいのが現状です。例えばGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などは国内株式・債券に何兆円単位で配分しますが、インフラファンド市場全体でも数千億円規模しかなく、本格的に投資するには市場が狭すぎます。ただし機関投資家も再エネ分野への興味は高く、インフラ投資枠を設けて海外を含めた再エネ発電事業に出資する動きがあります。GPIFはカナダ公的年金等と組んで海外のインフラファンドに出資したり、国内でも大手生保が再エネ事業ファンド(例えば前述のスパークス・グリーン蓄電所ファンド)にLP参加したりしています。機関投資家にとって再エネファンドのメリットは、ESG投資として顧客に説明しやすいことと、長期安定収入が期待できALM(資産負債管理)上マッチしやすいことです。特に生命保険など長期負債を持つ投資家にとって、20年スパンのキャッシュフローが読める資産は貴重です。加えてカーボンニュートラルへの社会要請が高まる中、ポートフォリオのグリーン化も求められており、再エネ投資は評価向上につながります。ただし上場市場ではなく私募ファンド経由での投資を選好する場合が多いです。その方が大量の資金を一度に投下しやすく、運用条件についても交渉余地があるためです。例えばメガバンクや商社などは、自らがスポンサーとなってインフラファンドを立ち上げるケースもあります(伊藤忠商事・丸紅などはそれぞれエネクス・インフラ投資法人、ジャパン・インフラファンド投資法人のスポンサーとして名を連ねています)。機関投資家にとっての戦略は、まず小規模でも実績を積み上げ市場育成に協力し、将来的に大規模投資が可能な環境を整えていくことです。これは自己の投資機会拡大にもつながります。実際、野村証券や三井住友トラスト基礎研究所などが市場調査報告を発表し、制度改善提言を行っています。蓄電池やデジタルインフラ資産も組み入れ対象にするなど、投資ユニバース拡大が進めば、機関投資家の参入も本格化するでしょう。
  • 利回りの他資産比較: 再エネファンドの期待利回りを他の代表的資産と比較すると、現行では日本国債10年(利回り約0.5%)、社債(1~2%台)、東証株式益回り(E/Pで約5%前後)、J-REIT(3~4%台)といった水準に対し、5~6%台のインフラファンド利回りは十分高い位置にあります。これは投資妙味がある反面、「市場がリスクを織り込んで高利回りになっている」とも解釈できます。つまり市場参加者は将来の制度リスクや成長限界を見越して要求利回りを高めに設定している可能性があります。一方、欧米ではインフラ投資はむしろ低リスク資産と見なされ、4~5%程度の利回りでも人気があるケースもあります。日本でも、仮に再エネファンドへの信頼性が上がり市場が成熟すれば、利回り水準が低下(価格上昇)する余地があります。そうなれば早期参入者はキャピタルゲインも得られるでしょう。しかし当面は分配金収入メインの投資として捉え、他資産利回り動向にアンテナを張る必要があります。特に長期金利とのスプレッドが縮小すると、ファンド価格に下押し圧力がかかり得ます。現状では日本国債利回りとの差が約5ポイント程度あり十分クッションがありますが、将来もし金利が2%や3%に上昇すれば、より高い分配利回りが要求されファンド価格が調整する可能性があります。
  • 投資戦略の工夫: 投資家は再エネファンドをどうポートフォリオに組み込むか戦略を練る必要があります。一つは長期保有で安定収益確保する「配当金生活」志向です。定年退職後の年金補完などに、再エネファンドからの配当を充てるイメージです。もう一つは相場状況に応じて売買しキャピタルゲインも狙う戦略です。市場が過度に悲観して売り込まれ利回りが急上昇した局面で買い、価格が切り上がったら売却するというやり方ですが、流動性が低いため大きな値幅は期待できません。ただIPO時よりかなり割安になった銘柄があれば狙い目かもしれません。もう一つ考えられるのは、テーマ投資・ESG投資枠として位置付けることです。ポートフォリオの数%を再エネファンド(上場・非上場問わず)に投じ、社会変革の波に乗る意識を持つというものです。この場合、直接的な利回り以上に非財務的なリターン(社会的リターン)を重視することになりますが、昨今のESG潮流を考えれば十分意義ある戦略です。

 以上より、再エネファンドは投資家層によって評価が分かれるものの、総じて「高利回り・低ボラティリティのインカム資産」として認識されています。他の資産との相関も低めであることから、伝統的な株式・債券ポートフォリオに組み入れることでリスク調整後リターンの改善も期待できます。個人・機関それぞれの事情に応じて活用し、日本のクリーンエネルギー転換を金融面から支えることが今後ますます重要になるでしょう。

 再生可能エネルギー分野では技術革新が日進月歩で進んでおり、新たな投資機会が創出されています。蓄電池・水素・スマートグリッドなどは、その代表例です。再エネファンドにとっても、こうした技術トレンドを捉えることが将来の成長戦略に直結します。

  • 蓄電池(大型蓄電システム): 太陽光・風力は出力が天候に左右されるため、蓄電池を併用することで電力の安定供給を図る動きが世界的に広がっています。日本でも送配電系統用の大型蓄電池設備が注目されており、蓄電所ビジネスが新たなインフラ投資対象となりつつあります。実際、ロンドン証券取引所では2018年以降、BESS(Battery Energy Storage System)専門の上場インフラファンドが登場し、開発済み蓄電所の受け皿として機能しています。日本でも2024年2月、国内初の蓄電池特化ファンド「スパークス・グリーン蓄電所ファンド」が設立されました。同ファンドは運用期間25年・規模263億円で、メガバンク(SMBC・みずほ)や生保(朝日生命)などが出資する機関投資家主体の私募ファンドです。蓄電所は再エネ大量導入による出力変動を吸収し、出力抑制を減らすために不可欠とされています。また容量市場や調整力市場といった新市場で収益を得ることも期待されます。このような蓄電ビジネスは、従来の単純な売電モデルと異なり多様な収益源(調整力提供料、容量市場収入、スポット市場裁定など)を持つため、ファンド運用としてチャレンジングである一方、大きな成長が見込める分野です。今後、上場インフラファンドでも投資対象に蓄電池を含める動きが出てくる可能性があります。ただ、現在の投信法上は「不動産等」に該当しない純粋な設備(動産)は組み入れにくいという指摘もあり、制度面のアップデートが必要かもしれません。技術的にはリチウムイオン電池の大型化・コスト低下が進んでおり、2030年までに蓄電コストが大幅に下がれば、更なる市場拡大が起こるでしょう。ファンドにとっても蓄電池への投資は、既存発電資産の価値向上策としても活用できます。例えば太陽光発電所に後付けで蓄電池を設置すれば、出力制御時に電力を貯めてピーク時に放電し収入増を図るといった運用が可能になります。こうした改良投資も将来的に分配金増加につながるかもしれません。
  • 水素エネルギー: 水素は次世代エネルギーキャリアとして世界的に期待が高まっています。日本政府も「水素基本戦略」を策定し、発電やモビリティ、産業用途での水素利用拡大を掲げています。特に再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して製造する「グリーン水素」は、究極のクリーン燃料として注目されています。今後、水素を燃料とするガスタービン発電や燃料電池発電が拡大すれば、新たなインフラ投資領域となり得ます。例えば川崎市の火力発電所で水素混焼発電の実証が進んでいたり、豪州から液化水素を輸入するプロジェクトなども動き始めています。これらが商用段階に入れば、水素インフラ(製造プラント、貯蔵・輸送設備、専用発電設備など)に投資するファンドが現れる可能性があります。実際、欧州では水素関連スタートアップやプロジェクトに特化したファンドが出始めています。また、水素と密接に関連するアンモニア発電も日本では推進されており、石炭火力へのアンモニア混焼や専焼発電所計画も出ています。アンモニアも水素由来燃料であり、これら燃料サプライチェーンの整備に大規模投資が必要となります。再エネファンドが直接水素製造事業に関与する例はまだありませんが、例えば余剰再エネ電力で水素を製造・販売する事業を行うSPCに出資する形など、新しいスキームは考えられます。政府は2030年に水素発電1%(年300万トン利用)という目標を掲げており、達成には民間資金の投入が不可欠です。ファンド運用会社もこれをビジネスチャンスとして、水素プロジェクトファイナンスに参画したり、水素インフラファンドの創設準備を進めたりするかもしれません。
  • スマートグリッド・デジタル技術: 再エネ大量導入時代には、従来型の集中制御の電力網からスマートグリッド(高度に制御された分散電力網)への移行が必要です。IoTやAIを活用して需要と供給をリアルタイムでマッチングし、電力の無駄や偏りを最小化する技術が進んでいます。具体的には、需要側のデバイスを制御するデマンドレスポンス、複数の分散電源や蓄電池・EVを統合制御するVPP(バーチャルパワープラント)、ブロックチェーンで電力取引を効率化する仕組みなどが実証されています。これらスマートグリッド関連のインフラ(通信網や制御システム等)も、新たな投資対象となり得ます。実際、米国などでは「グリッド強靱化予算」として莫大な投資が計画され、送電網のデジタル化や配電自動化設備への需要が高まっています。日本でも送配電事業者による系統増強計画にデジタル要素が組み込まれており、再エネ発電所に蓄電池や遠隔制御装置を設置して需要応答する事業が増えています。ファンドにとっても、発電設備のみならずそれを取り巻くスマートインフラをセットで捉えることで、より包括的な収益モデルが構築できます。例えば再エネ発電所と地元の需要家を電力融通するマイクログリッド事業に投資すれば、売電収入とともに需給調整サービス料といった収益も得られるかもしれません。さらにEV(電気自動車)の普及により、EVを電力系統の蓄電・供給リソースとして活用するV2G(Vehicle to Grid)の考え方も現実味を帯びています。将来、EV充電スタンド網やV2G制御システムへの投資も再エネファンドの管轄に入ってくる可能性があります。これらはまだ黎明期の技術ですが、再エネとデジタルの融合は避けられない流れであり、資金ニーズも極めて大きい分野です。
  • その他の技術革新: さらに広義には、地熱発電の新技術(潜在的な高温岩体発電など)、洋上風力の浮体式技術開発、潮流・波力発電、さらには核融合エネルギーといった将来的なクリーンエネルギー技術もあります。現時点で投資対象となる段階ではありませんが、技術が成熟すれば新たなインフラファンド対象となり得ます。例えば洋上風力は既に固定式の商用案件が日本でも出始めており、今後大規模な開発が予想されます。政府は2040年に洋上風力45GWを目指す方針であり、これだけで数十兆円規模の投資が必要です。今のところ洋上風力案件は欧州系の大手電力会社や商社連合が事業主体ですが、運転開始後にファンドへリファイナンスで売却する動きが出るかもしれません。その際、洋上風専門のインフラファンドなどが出現する可能性もあります。

 以上のように、技術革新は再エネファンドに新たな投資テーマを提供します。現在の上場ファンドは太陽光中心ですが、徐々に風力・水力・蓄電などへ裾野が広がりつつあります。将来を見据え、運用会社は新技術にアンテナを張り、適切にポートフォリオに取り込む工夫が求められます。投資家にとっても、そうした技術動向を理解し支援する姿勢がファンド選択のポイントとなるでしょう。

 再生可能エネルギーファンドはESG(環境・社会・ガバナンス)投資と極めて親和性が高い商品です。その社会的インパクトやESG評価への影響について整理します。

  • 環境(E)の側面: 再エネファンドへの投資は、そのまま気候変動対策への貢献となります。太陽光や風力発電は発電時にCO2を排出しないため、化石燃料発電を代替することで温室効果ガス削減に寄与します。例えば1kWhの太陽光発電は石炭火力に比べて約0.5kgのCO2削減効果があると言われます。インフラファンド各社は、毎期の環境貢献量(CO2削減量や再エネ発電量)を開示しており、投資主に環境インパクトを示しています。これらデータはESG投資家にとって重要な指標であり、投資判断時に参照されます。特に欧米の大手機関投資家はポートフォリオの炭素強度を管理する動きが強く、再エネファンドはポートフォリオ全体の炭素強度を下げる役割を果たします。そのためESGスコアを向上させるアセットとして再エネファンドを組み入れるケースもあります。
  • 社会(S)の側面: 再エネファンドは地方創生や地域雇用にも資する側面があります。太陽光発電所はしばしば耕作放棄地や遊休地に設置され、地元企業がメンテナンスを請け負うなど地域経済に貢献します。ファンド自身も「地域社会と共生し、地域振興に寄与する」ことを掲げている場合が多く、出資金の一部を地元自治体に寄付したり、環境教育イベントを開催したりといったCSR活動を行っています。例えばあるインフラファンドは発電所所在地の自治体と協定を結び、防災設備の提供や人材育成支援を実施しています。このような取り組みは社会的インパクト投資の要素を帯びており、投資家の評価にも繋がります。特にSDGs(持続可能な開発目標)の達成に関心を持つ投資家にとって、再エネファンドはSDG7「エネルギーをみんなに」「気候変動に具体的な対策を」等への直接的貢献手段と映ります。また、地域住民との協働(例えば発電所見学会の実施、地元雇用創出)も社会性評価のポイントです。再エネファンドがトラブルなく地域に根付いて運営されれば、ステークホルダーに広く利益をもたらすwin-winモデルとなり、社会的評価が高まります。
  • ガバナンス(G)の側面: ファンドの運用ガバナンスもESG評価に含まれます。J-REITやインフラファンドでは運用会社の体制、利益相反管理、コンプライアンスなどが評価対象です。特に再エネファンドの場合、スポンサーとの関係(例えば資産の取得価格が公正か、利益配分は適切か)が注視されます。RJIFのようにスポンサーが自社開発資産をファンドに売却する場合、価格査定やデューデリジェンスの透明性が重要です。また投資法人の役員会で独立性が保たれているかも問われます。さらにESGの文脈では、情報開示の質も評価されます。環境データや事故情報の適時開示、ESG方針の策定、公正な第三者認証(GRESB評価等)の取得など、ガバナンス努力が問われます。幸い、日本の上場インフラファンド各社はJ-REITの慣行もあり、ガバナンス水準は概ね高いと考えられます。もっとも、RJIFやタカラレーベンIFのようにスポンサー主導で上場廃止となった事例は、少数投資主保護の観点で課題を残しました。今後、市場ルールや運用会社の姿勢として、一般投資家の利益をいかに守るかが問われるでしょう。その意味でガバナンス面の強化はESG評価向上に直結します。
  • ESG投資マネーの呼び込み: 前述の通り、世界のESG投資残高は年々拡大しており、2016~2018年の2年間で1.3倍に増加したとのデータもあります。これほどのESGマネーが行き場を求めている中、再エネインフラは格好の投資先です。実際欧州では多くの年金基金がインフラファンド(再エネ中心)をESG枠で組み入れています。日本でも公的年金がインフラに一定配分する方針を示しており、ESG投資潮流に乗って再エネファンドへの資金流入が期待されます。ESG投資は「持続可能でなければ長期投資に適さない」という理念に基づくため、再エネという持続可能資産は理想的マッチと言えます。逆に言えば、化石燃料依存ビジネスは長期投資に適さないとして資金が引き上げられる(ダイベストメント)のに対し、再エネは資金が流入する構図です。すでに欧米では石炭火力関連事業から多くの金融機関が撤退し、代わりに再エネ事業ファイナンスを拡充しています。日本でもメガバンクが相次ぎ石炭融資停止を宣言し、再エネ融資目標を設定しています。このようなマクロトレンドは、再エネファンドに追い風となります。巨大な資金がESGスクリーニングを経て投資対象を探す中で、再エネインフラファンドは要件を満たす有力な選択肢となるからです。むしろ現在の課題は、日本国内で受け皿となる再エネファンド商品がまだ少ないことです。もしより多様な再エネ投資商品(たとえば公募投信や公的セクター主導ファンドなど)が増えれば、ESGマネーを呼び込みやすくなるでしょう。東京都など自治体も「官民連携インフラファンド」を組成して再エネに投資する試みを行いました。結果的にこのファンド(都出資含む官民ファンド)は2022年に解散しましたが、全国19か所・合計出力62万kWに投資する実績を残しました。こうした官民ファンドの知見を活かし、次なるESG投資プラットフォーム構築が期待されます。
  • 投資判断への影響: ESG投資家は財務リターンだけでなくESG評価も重視して投資判断を下します。そのため再エネファンド側も、GRESBインフラ評価(グローバルな不動産・インフラのESG評価機関)への参加やTCFD提言(気候関連財務情報開示)に沿った情報開示など、先進的な取り組みを進めています。投資家側では、自社のESG方針に沿って投資配分を決める中で、再エネファンドへの投資比率を高める動きがあります。また金融商品仲介業者や顧問が、顧客(特に富裕層)に対し「社会的インパクトも得られる商品」として再エネファンドを提案するといったケースも増えているようです。今後、世代交代でよりSDGsに関心の高い若い投資家層が増えれば、再エネファンド人気はますます高まる可能性があります。逆にESGに無関心・不十分な運用会社は、投資家から敬遠されるリスクがあります。そうした意味で、ESGの潮流は再エネファンド業界にとってチャンスであると同時に、より高い透明性と責任ある運用を求めるプレッシャーでもあります。

 総じて、再生可能エネルギーファンドはESG投資の本流に位置する商品であり、その社会貢献性は高く評価されています。環境価値・社会価値と経済的利益を同時に生み出す点で、まさに持続可能な投資対象の体現と言えるでしょう。今後もESG投資の拡大と歩調を合わせて、ファンド側も取り組みを深化させ、投資家との対話を通じてより良い社会づくりに資することが期待されます。

 再生可能エネルギーファンドは様々なリスクに晒されていますが、それらを管理・軽減するための手法が実際に取られています。ここではリスクマネジメントの実態と具体的な事例を紹介します。

  • 自然災害リスクへの対応: 日本は台風・地震・豪雨・豪雪など自然災害が多発する国であり、野外に設置される再エネ設備は被害を免れません。ファンド運用者は、被害を最小化するため保険加入と分散投資の二本柱で対策しています。例えば多くの太陽光発電所では火災保険・動産総合保険・事業休止保険等に加入し、設備損壊や発電停止による収入減少をカバーしています。前述のジャパン・インフラファンド投資法人のケースでは、盗難による機器損壊とそれに伴う売電停止について保険金請求予定であると迅速に発表し、投資主に安心感を与えました。また地理的分散も基本戦略です。例えば特定地域(九州など)に資産が集中しないようエリアを分けて投資する、あるいは複数メーカーの設備を組み合わせて共通不具合リスクを減らすといった工夫も見られます。さらに、災害時の情報収集・伝達体制も重要です。各ファンドはO&M業者や運用会社内で緊急時対応フローを定めており、異常発生時には迅速に原因究明と復旧作業に当たります。カナディアン・ソーラー・インフラ投資法人の例では、2024年の台風豪雨で発電所停電が発生した際、数日で全発電所復旧を確認し、設備被害無しと結論付けています。こうしたスピーディな復旧は、日頃の点検と備え(予備部品の確保や遠隔監視システム整備)のおかげと言えます。また、深刻な被害が出た場合でも、ファンドは単独企業と違い複数資産の集合体なので、分配金全体への影響は限定的となるケースが多いです。例えば1サイトが長期停止しても、他サイトからの収入である程度カバー可能です(この点は分散効果)。ただ、広域災害で多数サイトが被災すると大きな影響を免れません。そのリスク低減策として一部ファンドでは非常用の電源車や遠隔復旧システムを導入する動きもあります。今後、気候変動リスクが高まると予測される中で、こうした適応策(Climate Adaptation)の一環としてインフラファンドが自主的に耐久性向上投資を行うことも考えられるでしょう。例えば台風の風圧強度に耐えるため設備の補強工事をするとか、洪水リスクに備え敷地の盛土を追加するといった対応です。これらは短期的にはコストですが、長期の安定運用には欠かせない投資と捉えることが肝要です。
  • 規制・制度変更リスクの管理: FITからFIPへの移行や出力制御ルール拡大など、制度変更は避けられないリスクです。ファンド運用者は、定期的に政府の審議会資料やガイドラインをチェックし、先を読んだ行動を取っています。例えばFIP開始に合わせて、売電先を電力会社一本から市場取引やPPAにも分散することを検討したり、価格変動リスクを減らすため長期固定価格のPPA契約を結ぶ動きをしたりしています。実際に2022年以降、大規模太陽光案件で商社系のPPA(企業への直接電力販売)締結例が増えています。また、ファンドの中には出力制御に備えて蓄電池併設を進めているところもあります。出力制御が予見される地域では、蓄電池を置いて電力を一時的に貯め、制御解除後に売電することで売上減を補えます。これは技術的対応ですが、規制リスクの緩和策になり得ます。さらに、ファンドが協調して政策提言を行うケースもあります。インフラファンド各社で業界団体等を通じ、「安定した再エネ事業運営のための制度的要望」(例えば出力制御時の補償制度拡充など)を政府に働きかける動きです。これにより投資家保護を訴え、極端なルール変更を牽制する狙いがあります。また、ファンド独自に制度変更シナリオ分析を実施して投資主に情報提供する例もあります。例えば「FIT満了後の売電単価が○円になった場合、当ファンドの分配金は○%減少」といったシミュレーションを開示し、リスクを見える化しています。投資家にとっても、そうした情報は心積もりができるため有益です。さらに規制リスクには海外分散という選択肢もあり得ます。国内制度に依存しすぎないよう、一部ファンド資産を海外再エネプロジェクトに投資する案です(日本の投資法人が海外資産を組み入れることはJ-REITでも行われています)。ただ現状、再エネインフラファンドで海外資産組入れ事例はありません。今後市場が成熟すれば検討余地が出てくるでしょう。
  • ファンド運営・財務リスク: 上場ファンドの場合、J-REIT同様に破綻リスクは低いですがゼロではありません。テナントがいなくなる心配のある不動産と異なり、FIT期間中は確実に電力を買い取ってもらえるため、キャッシュフロー破綻の可能性は極めて小さいです。しかし金利急騰などで財務が逼迫すると、債務不履行から上場廃止に至る最悪シナリオも理論上はあり得ます。また運営会社の不祥事やガバナンス欠如で投資主の信任を失うケースも考えられます。実際、2019年頃にあるJ-REITで運用会社の不適切取引が発覚し、投資口価格が急落した例があります(後にスポンサー交代で立て直し)。インフラファンドでも同様のガバナンスリスクに備える必要があります。対策としては、スポンサー企業による支援やガバナンス体制強化が挙げられます。例えば財務悪化時にスポンサーが劣後ローンを出すとか、分配金減少時にスポンサー側が保有口数を増やして市場安定化を図るといった支援策が考えられます。実際、いちごグリーンインフラ投資法人ではスポンサーであるいちご株式会社が約20%の投資口を長期保有しており、利益相反に注意を払いながら安定運営にコミットしています。また先述の通り、RJIFやタカラレーベンIFの事例ではスポンサー主導のMBOが起こりました。これは破綻ではなくむしろ投資主には買付価格で利益確定機会を与えたとも言えますが、上場市場から退出した点で市場全体にはマイナスでした。こうした事態を防ぐには、ファンドの規模拡大と流動性向上が最善策です。規模が小さいとどうしてもスポンサーの思惑で左右されやすくなるため、各ファンドは公募増資や資産入替で時価総額を大きくし、機関投資家も取り込んで簡単に買収できない体制を築く必要があります。
  • ケーススタディ: 具体的な事例として、2019年の大型台風19号では東日本各地に洪水被害が発生し、数箇所の太陽光発電所が水没しました。ある未上場のメガソーラーでは全設備が冠水し長期間停止、出資者に減配が生じたケースがありました。この教訓から、他の発電所では土嚢設置や排水設備改善などハード対策が取られました。また2020年のコロナ禍では、電力需要減からJEPX市場価格が低迷し、一時的に売電収入が想定を下回った事業者がありました。しかし大半がFIT契約だったため深刻な影響とはならず、むしろ電力小売り事業者の方が打撃を受けたのが対照的でした。このように、ファンド自体は比較的堅牢な設計になっています。ファンド破綻の極端な例はまだ日本ではなく、むしろ淘汰が起きるのは未上場・匿名組合型の小規模ファンドで、案件選定ミスや詐欺的商法により出資金が回収不能になるケースです。最近でも太陽光ファンドを装った詐欺事件が報じられています。投資家はそうした見極めも必要で、信頼できる運用主体かどうか精査すべきです。

 総じて、再エネファンド各社はリスクマネジメントに細心の注意を払っており、保険・分散・制度適応・スポンサー支援など、多層的な対策で投資主価値の保全に努めています。今後、気候変動の深刻化やエネルギー政策の転換など不確実性はありますが、その都度適切な対処を行いながら持続可能な運用を図っていくことが肝要でしょう。投資家としても、そうしたリスク要因と対策を理解した上でファンドを選択し、中長期的視点で支えていくことが求められます。

 最後に、日本の再生可能エネルギーファンド市場の将来展望と、各ファンドが描くべき成長戦略について考察します。

  • 市場規模拡大のポテンシャル: 2025年現在、上場インフラファンド市場はまだ約5銘柄・時価総額1,000数百億円程度ですが、日本の再エネ導入目標を考えると今後飛躍的な拡大余地があります。2030年の再エネ電源構成36~38%(約3,600万kW以上)を達成するには、更に数十兆円規模の投資が必要です。すでに国内には非上場も含め2兆円超の再エネファンド資産が形成されていますが、これは裏を返せばまだ必要資金の一部に過ぎません。官民合わせてより多くの資金を呼び込むため、インフラファンド市場の拡大策が検討されています。例えば証券界からは「インフラファンド版NISA」や年金税制上の優遇などが提案されています。また、投資対象の拡張(蓄電池・デジタルインフラ等を明確に組み入れ可能にする)も議論されています。これらが実現すれば、新規ファンドの上場や既存ファンドの増資が進み、市場規模は飛躍するでしょう。実際、SMBC日興証券などはいずれ「インフラファンド市場はJ-REIT市場並みに成長し得る」との見方を示しています。もっとも、それには投資家層の拡大(特に機関投資家参入)と投資対象の多様化が不可欠です。近年、ゆうちょ銀行や地方銀行など一部の機関が上場インフラファンドへの投資を開始したとの報道もあります。市場整備が進めば、生命保険や信託銀行なども徐々に参入する可能性があります。また、海外投資家へのアピールも重要です。日本の再エネインフラは為替ヘッジしてもなお魅力的な利回りを提供できるため、海外インフラ投資ファンドが日本市場に注目するかもしれません。政府としても成長戦略の一環でグリーン分野への投資促進を掲げており、東証インフラ市場を活性化させる政策が期待されます。
  • 新規ファンドの登場: 現在、上場インフラファンド銘柄数は残念ながら減少しましたが、潜在的な新規上場候補は存在します。例えば再エネ発電事業を多数抱える電力会社系企業や商社系企業が、自社アセットをリート化(ファンド化)する可能性があります。大手電力会社も従来の収益構造に限界が見えてきており、保有する再エネ資産を活用して資金調達するスキームとしてインフラファンドを検討しても不思議ではありません。実際に欧州では電力会社が自社の再エネ発電所をYieldCo(配当特化の子会社)として上場させる例があります。日本でも例えばJ-POWERや関西電力が風力・水力資産でファンドを創れば、注目を集めるでしょう。また、蓄電池や送配電設備を対象とするインフラファンドなど、新テーマのファンドも考えられます。データセンターREITが登場したように、再エネ関連インフラに特化したファンド(例えば「洋上風力インフラファンド」や「スマートグリッドファンド」)なども将来的には構想されるかもしれません。既存プレイヤーでは、ジャパン・インフラファンド投資法人(9287)はスポンサーに丸紅・みずほを持ち、将来的に空港・道路等含む社会インフラへの投資も視野に入れるとされています。こうした多角化も市場拡大に寄与するでしょう。
  • 各ファンドの成長戦略: 既存ファンドにとって、今後の成長は必須課題です。成長シナリオとしては、(1) 外部成長(新規資産取得)、(2) 内部成長(コスト削減や設備改善による収益向上)、(3) 資本政策(増資による規模拡大と信用力向上)が挙げられます。外部成長については、スポンサーのパイプラインをフル活用することが基本です。例えばカナディアン・ソーラーIFは今後もスポンサー開発案件を優先交渉権に基づき取得予定で、数百MW規模のパイプラインが公表されています。いちごグリーンインフラもいちご株式会社が全国で開発中の太陽光を将来取得する可能性があります。東京インフラ・エネルギー投資法人(9285)はスポンサーのAdvantage Holdingsが小水力発電なども手掛けており、多様な資産取得の芽があります。内部成長では、運営費用の削減や融資条件の改善(借換えで金利引下げ)などで分配原資を増やす努力がされています。また出力制御対策として蓄電池導入を検討しているファンドもあるようです。それにより売電量増加を図れれば、分配金アップも期待できます。さらに技術進歩でパネル効率が上がれば、既存設備のリプレース投資(新型パネルに交換)で発電量を増やすことも可能かもしれません。資本政策としては、NAV倍率(純資産倍率)が高い状況で公募増資を行い新規資産取得資金とする戦略があります。これにより総口数増で流動性も増し、指数採用などにも近づきます。ただし近年は株価(投資口価格)がやや低迷気味でNAV割れ水準の銘柄もあるため、安易な増資は難しい面があります。そこでスポンサーからの第三者割当増資など、工夫した資金調達が検討されるでしょう。
  • 投資家との協調: ファンドの成長には投資家の支持が不可欠です。市場の信用を維持・向上するため、各ファンドは投資主に対する丁寧な情報開示とコミュニケーションを重ねる必要があります。具体的には、定期的なIR説明会や個人投資家向けセミナーの開催、分配金方針の明確化、ESG取り組みの開示強化などです。幸い、再エネファンドはストーリー性があり投資家にも理解されやすい分野です。発電所見学イベント等で実物を見せることも有効でしょう。また、ファンド同士の合併や統合も将来的選択肢として考えられます。市場での競争ではなく協調して規模拡大を図ることで、より大きなファンドを作り上げる手法です。J-REIT市場では過去に複数の合併例がありますが、インフラファンドではまだ実現していません。ただ2022年にCSIFがRJIFに合併提案をする動きがあったように、今後状況次第では健全な再編も起こり得ます。合併により運用コスト効率化・資産ポートフォリオ強化が実現すれば、投資主価値向上につながります。
  • 長期ビジョン: 再エネファンド各社は少なくとも2040~2050年頃まで視野に入れた長期ビジョンを描くことが求められます。なぜなら、多くのFIT資産が2030年代後半に契約満了を迎え、新たな局面に入るからです。その時、単に発電所を売却して清算するのではなく、次の収益モデルを構築してファンドを継続させるシナリオが望ましいでしょう。例えば、FIT期間終了後はその設備で安価な電力を生み出せる強みを活かし、地元企業とのPPAで新たな安定収入源を確保する、あるいは設備をリプレース(更新)して再度FITもしくは次世代制度に適用させるなどの戦略が考えられます。また、2050年カーボンニュートラルの目標年には、再エネのみならず水素・蓄電・需要側制御を組み合わせた高度なエネルギーシステムが出来上がっているでしょう。そのときファンドも、再エネ+αの包括インフラファンドへと進化しているかもしれません。例えば「再エネ発電所+水素製造プラント+蓄電所」を一体で運用するインフラファンドなどです。長期ビジョンとしては、日本国内に留まらず海外の成長市場への展開も選択肢です。東南アジアや中東など再エネ拡大が期待される地域に出資し、グローバル再エネポートフォリオを形成すれば、更なる成長ドライバーとなるでしょう。ただし為替リスクや現地規制リスクも伴うため、慎重な見極めが必要です。

 まとめると、日本の再生可能エネルギーファンド市場は今後も拡大が見込まれ、成長のカギは「新規資産の取り込み」「投資対象の多様化」「投資家基盤の拡大」にあります。市場全体としては、より多くの資金を呼び込み脱炭素化に貢献するという社会的使命を帯びており、政府・企業・投資家が一丸となって育てていくべき領域です。各ファンド個別に見ると、高い専門性と柔軟な戦略で安定運用を続けつつ、新たな機会に果敢に挑戦する経営が求められます。再生可能エネルギーへのシフトはもはや不可逆的な流れであり、それを金融面から支えるインフラファンドの役割はますます重要になるでしょう。投資家にとっても、単なる利回り追求だけでなく、この成長市場の参加者として持続可能な未来づくりに資するという大局観を持つことで、長期的な成功を共有できるはずです。

【参考資料】 再生可能エネルギー政策・市場動向・ファンド開示資料等より作成(資源エネルギー庁ウェブサイト、電気新聞、東京インフラ・アセットマネジメント社資料、Monexマネクリ、Wikipedia、名古屋社労士法人ブログ、ZUU online他)

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